キングオブパスタ

COLUMN

KING OF PASTA 2024

「パスタのまち 高崎」を支えるバイプレイヤー!自治体職員が語るキングオブパスタのまちづくり

COLUMN

2024年03月29日

地域の食文化の発信を目指すキングオブパスタ

 
毎年のイベント開催を手法に、高崎市の食文化を発信し続けるキングオブパスタ。地域を愛する有志の手で企画・運営されているイベントは、回を重ねるごとに多くの方々に応援していただけるようになりました。
前回のコラムではキングオブパスタで大活躍の市内名店が語る高崎パスタについてお伝えしましたが、今回はイベントを裏から支える高崎市の自治体職員の皆さんにお話を聞いてみたいと思います。民間と行政――立場は違っても“高崎の街が好き”な同志として、これまでのキングオブパスタが街に与えた影響や今後の高崎パスタについて語っていただきました。

 

 

お話を伺った方々(写真右から)

■ 安藤 浩⼆ 様
・⼀般社団法⼈⾼崎観光協会 事務局⻑
■ 松⽥ 和也 様
・⾼崎市役所 観光課
■ 悴⽥ 和之 様
・公益財団法⼈群⾺交響楽団 事務局次⻑
■ 野澤 厚志 様
・⾼崎市役所 商⼯観光部 商⼯振興課 係⻑
■ ⼟屋 翔平 様
・高崎市商工観光部産業政策課(JICA東京高崎分室)

 

パスタ好きの高崎市民が作ったイベント、キングオブパスタとの関わり

 
⸻ キングオブパスタは市民発のイベントですが、多くの自治体職員の皆さんにも力をお借りして運営を続けています。仕事やプライベートで「高崎パスタ」に関わる皆さんの自己紹介をお願いします。

 
松田さん 高崎市役所商工観光部の松田です。今回のインタビューメンバーを高崎パスタの道へ巻き込んだ発起人であり、第一回からキングオブパスタのファンです。高校時代は授業が終わったら「ボンジョルノ」で大盛りパスタを食べ、市街地で遊んだ後は「シャンゴ」でベスビオを食べる……そんな青春時代があり、パスタのイベントを応援したいと思いました。民間企業・行政・地域の人たちがつながって一緒にイベントを盛り上げる仕組みを作ろうと、市役所内でパスタに関する政策研究会を立ち上げ、キングオブパスタと関わり始めました。

 
悴田さん 群馬交響楽団事務局の悴田です。松田さんが言うように、パスタでまちおこしができないかと考え、市役所内のメンバーで政策研究会を立ち上げたことが関わりのきっかけです。研究の一環としてキングオブパスタにボランティアとして参加したり、研究成果を会場で発表したり、高崎の街やパスタと楽しく関わる日々を過ごしました。また、楽団へ移動した初年度に「キングオブパスタの音楽ブースで群響に演奏してほしい」とご依頼いただいたことも、キングオブパスタとの縁だと感じています。

 
野澤さん 高崎市役所商工振興課の野澤です。業務はキングオブパスタしかり、街中のイベントに関する財政的支援を担当しています。市役所に入庁したばかりの頃、先輩の松田さんに市内のいろんなパスタ店を教えていただきました。その後、2011年の政策研究会に参加し、キングオブパスタにも関わるようになりました。

 
土屋さん 高崎市役所産業政策課の土屋です。今は国際協力機構(JICA)にて、市内企業の海外事業展開サポートや外国人人材の採用支援、海外協力隊を目指す人のフォローなどの仕事をしています。キングオブパスタを知ったのは、大学を卒業して地元高崎に戻ってきたときです。地域で盛り上がっているイベントに興味があり、市役所の先輩方がボランティアをしていると聞いて、私も参加を決めました。

 
安藤さん 高崎観光協会の安藤です。仕事は「高崎だるま市」や「高崎まつり」など、市のイベント運営を担当しています。松田さんと同じく、学校帰りに食べるご飯が学生時代の楽しみで、よく「デルムンド」に通っていました。キングオブパスタのイベント自体には関わっていませんが、高崎観光協会として市外でのイベントを行う際に「高崎パスタ」のPRを行っています。キングオブパスタ出場店の皆さんと協力して、高崎の食の魅力をお伝えしています。

 
⸻ それぞれの立場や業務、そして思い出を通じた関わりがあるんですね。初めてキングオブパスタが開催されると聞いたときには、どんな印象がありましたか。

 
松田さん 当時、高崎で開催される食のイベントは少なく、初開催のときにはテーマがパスタだということに驚きました。パスタでイベントができること、そして多くの方が来場されている様子をみて「すごい!」と感じました。

 
悴田さん 私は実行委員会のメンバーが建築会社や造園会社など「飲食関係者ではない人たち」だということに圧倒されました。自治体や行政の関係者もおらず、皆さんからは「もし赤字になったら、自分たちで背負う」という気合いや覚悟を感じましたね。

 

 
松田さん 元々行政との関わりがあったら、今のように行政内で部署の違うメンバーと一緒に関わるのは難しかったかもしれません。民間の手で立ち上がったイベントだからこそ、それぞれの部署や立場で応援できるイベントだと思いました。

 

市内外の反応から考える「パスタのまち 高崎」の姿

 
⸻ キングオブパスタの開催以前、高崎はどんなまちだったのでしょうか。以前の「高崎パスタ」について、印象がありましたらお教えください。

 
土屋さん 特別「パスタ店が多いまち」と意識することはありませんでしたが、思い返すと生活の中にパスタの存在はあったと思います。家の近くや職場の近くに必ずパスタ店があることを当たり前に思って過ごしていました。

 
松田さん 県外・市外に出るとパスタ店が少なかったり、イタリア料理店で「パスタの種類が少ないな」と思ったりしますよね。

 
悴田さん 県外では「ベスビオ(高崎発祥の魚介と唐辛子のトマトパスタ)ください」と言っても話が通じないというのもおもしろいエピソードだと思います。

 
松田さん やっぱり、高崎市民にとってパスタは身近な存在だったということでしょうね。でも「高崎と言えばパスタだよね」というイメージは無かったと思います。

 
⸻ 今年で15周年を迎えたキングオブパスタ。イベントを続ける中で、高崎のまちにどんな影響があったでしょうか。

 
土屋さん 私はキングオブパスタが「高崎はパスタのまち」と認識されるようになったきっかけだと思います。イベントがなかったら「高崎って有名なパスタ店が多いよね」と落ち着いていたかもしれません。香川県は「うどん」が観光の目的になっているように、高崎も「パスタ」を目的に観光してもらう地域になりつつあると思います。

 
安藤さん そうですね、本当にキングオブパスタが高崎の知名度と「高崎パスタ」のネーミングを広めたんだと思います。観光協会には「美味しいパスタのお店を教えてください」という電話がきたり、県外でイベントで「今回○○店のパスタは食べられますか?」と聞かれたりします。高崎パスタが高崎のキラーコンテンツになっていると感じます。

 

 
⸻ 「県外から高崎パスタを目指して来る」という人も増えているんですね。観光目的の一つになるほど高崎パスタが人気になった理由は何でしょうか。

 
土屋さん キングオブパスタという市内のパスタ店が集まるイベントを作ったことで、雑誌やTVに取り上げられることが増えましたよね。高崎パスタを食べに来る人が増えた影響の一つには、メディアの存在が関係していそうです。

 
野澤さん 私がキングオブパスタのボランティアをしていたときも、メディア取材が市役所に来て対応したことがありましたよ。取材だけでなく生放送の番組にも出演させていただく貴重な経験をさせていただきました。

 
松田さん 私も「マツコの知らない世界」に出演して、高崎パスタについてお話しさせていただきました。「マツコさんに高崎パスタをアピールしてもらいたい」と緊張して臨みましたが、何も言わずともマツコさんは高崎パスタについての感想やアイディアをたくさんお話ししてくれました。非常にうれしかった思い出です。

 

 
⸻ メディアを通じた「パスタのまち 高崎」の発信が、大きな影響を与えたことが伺えます。高崎パスタが街の文化として発信されることで、新たに変化したことはありますか。

 
松田さん 「パスタのまち 高崎」というイメージが根付いたことで、地域に新たな産業が生まれた――これは本当に、大きな成果だと思います。私も「高崎産小麦でパスタが作れたら」という夢は抱いていましたが、実際に事業として始める人が出てきたというのが素晴らしい。農家さんがイタリア野菜を作るようになったり、居酒屋のメニューにパスタが出てくるようになったり……「こうやって文化ができていくんだな」と実感しています。

 
悴田さん 松田さんのお話は、13年前の研究会で目標としていたこととも重なります。研究会では「これまでの高崎パスタの系譜を残すこと」と「この先10年に向けた提案や協力案をまとめること」を目的に活動していました。報告書の中に「オール高崎産食材でパスタを作る」という野望を書きましたが、今は高崎産小麦のパスタ麺の製造や高崎産オリーブの栽培が行われています。キングオブパスタは「群馬県産食材の使用」がレギュレーションにあるように、地域への想いを大切にしているイベントだったからこそ、麺や食材の製造をする方が現れたんじゃないかと思います。

 

キングオブパスタに関わる人たちの情熱が、“人”と“まち”を変える

 
⸻ 市民の力で立ち上がり、現在は実行委員会形式で運営されているキングオブパスタ。イベントやまちづくりに詳しい皆さんから見て、イベントの特徴は何だと考えますか。

 
土屋さん 運営される皆さんの一体感、学生も含めチームとしてまちおこしのイベントができていることが最大の特徴だと思います。様々な業種の方で実行委員会が運営され、通年関わる人もいれば当日ボランティアとして参加する人もいるグラデーションがおもしろいです。

 

 
野澤さん 学生ボランティアに対しては、担当の方が良いパイプ役を担っていますよね。学生たちが「頑張ろう」と思えるポジティブな影響を与えていて感心しました。

 
松田さん 私はキングオブパスタの最大の特徴は、実行委員会の人たちの“仲良しさ”だと思いますね。だから、良い意味で「ずっと青春している団体」だと思います。皆が皆「やりたいからやる、好きだからやる」というスタンスなので、無理に次の世代に引き継ぐことはせずに、「やりたい」と思う限りは杖を突いてでもやるのがキングオブパスタ。もちろん、私たち含め周りの人も好きに手伝いながら、一緒に歳をとっていくんだろうなと感じています。

 
安藤さん 松田さんの言うように「やりたい人が、好きなことを好きなだけやる」ということが、イベントを成功させている秘訣だと思います。私はいろんなイベントの実行委員会と関わることがありますが、キングオブパスタのように想いを一つにして団体を運営するのは難しいですよ。

 
⸻ 関わる人たちのつながり方や質が特徴的ということですね。確かに、これまでのインタビューでも様々な立場の方にお話いただきましたが、皆さんから“共通した想い”のようなものを感じています。

 
悴田さん 私は皆さんの話を聞いて、キングオブパスタに関わり始めた頃の飲み会の席で、実行委員の方が「俺たちはイベントをつくっているんじゃない、人をつくっているんだよ」という話を熱く語ってくれたのを思い出しました。キングオブパスタには毎年違う学生ボランティアが関わりますが、メンバーが代わっても気持ちが受け継がれているのを感じます。そして、大学を卒業して5年後、10年後にまた高崎と縁ができる子もいます。――これが実行委員の方が言っていた「人をつくる」ということなんだと実感しています。

 
⸻ 仕事としてまちづくりや観光に携わる皆さんから見て、地域の観光資源になりつつある「高崎パスタ」の特徴や魅力をお教えください。

 
野澤さん 定義できるようで定義できないのが、高崎パスタ。定番のメニューがなく、高崎市内で食べられるパスタは「全て高崎パスタ」と言えるような“ゆるさ”が特徴だと思います。

 
土屋さん トマト味も塩味もクリーム味も全部「高崎パスタ」になるってすごいことですよね。お店の工夫次第でいろんなパスタが作れるところは、他のソウルフードとは違ったおもしろさがあると思います。

 
安藤さん ご当地料理やB級グルメには、メニューや作り方などのルールが存在することが多いです。高崎パスタにそうした枠がなく、多様で創造的なのが珍しい特徴ですよね。

 
⸻ 味や食材の自由度が高いというおもしろさは、一方で「説明しづらい、固定イメージをつくりにくい」といった難しい点でもありそうです。行政的にはPRに苦労するところも多いのではないでしょうか。

 
松田さん 確かに、高崎のお店は「どこのお店でも同じ味が食べられる」わけじゃなく、それぞれの店が得意なメニューやオリジナルの味付けで「高崎パスタ」を作っています。でも、メニューや食材を一律に指定していたら、今のような文化として育たなかったと思うんです。それぞれのお店に通じるものを感じつつ、提供されるパスタの味が違うという“総合力”があるのが高崎パスタの魅力だと思います。

 
悴田さん 市民の皆さんもそれぞれお気に入りの店があって、お気に入りのパスタメニューがありますよね。それは宇都宮の人が「ここの餃子がいいんだよ」って言うのと一緒で、「高崎パスタ」という文化の内側にいる人しかわからない感覚かもしれません。だから私は、市外から来た人を案内するときにできるだけ多くのパスタ店に連れて行きます。自分の“推しパスタ”を見つけてもらうことが、高崎パスタを楽しむ一歩だと思います。

 

 
土屋さん 高崎パスタは、行政や飲食店から一方的に発信されるものじゃない……パスタを食べるときに「高崎パスタだ」って認めて食べるお客さまがいるから成り立つ、高崎ならではの食文化なんだと思います。

 

地域とパスタへの愛情が人をつなぐ 多様な主体と共に進む高崎の街

 
⸻ インタビューから、キングオブパスタというイベントの影響や文化がつなぐ絆が高崎の街に息づいていると感じました。15年の歩みを振り返った感想を教えてください。

 
松田さん これまでは「高崎市民の外食先の一つ」でしかなかったパスタ食を、「県外から食べに行く目的」へと幅を広げたキングオブパスタ。休日のパスタ店の混み具合やパスタ店前に県外ナンバーの車が並ぶ様子をみるたびに、15回の積み重ねを感じます。

 
悴田さん 以前、私と松田さんが高崎観光協会で仕事をしていたときに、キングオブパスタの未来について話が出たことがありました。そこでは「イベントが10年続いたら文化になる」という話でしたが、あっというまに15周年。本当に高崎の文化をつくる、素晴らしいイベントに成長したなと思います。

 
⸻ 最後に、今後のキングオブパスタや「パスタのまち 高崎」に期待することはなんでしょうか。

 
松田さん キングオブパスタはこのまま立ち止まらず、次のステップへ進むイベントになってほしいと思います。実行委員会の皆さん、飲食店の皆さん、応援する私たちが連携した新しい取り組みができないか――そういう“次”に期待していますし、今後も携わっていくことを楽しみにしています。

 

 
土屋さん キングオブパスタはコロナ禍でも進み続け、スタンプラリー形式という新しいイベントの形を生み出してくれました。イベントができなかった年の発見や成果も活かしていきたいですよね。

 
野澤さん 市内では他にも多くのイベントが開催されているので、参考になりそうなイベントや取り入れられそうなアイディアは多そうです。

 
悴田さん 我々一同、今後もお手伝いできればと思っています。よろしくお願いします。

 

 
最後に、野澤さんが見せてくれたのは「キングオブパスタ2012」のスタッフジャンパー。「着ていたよね、懐かしい!」と、当時の思い出話で盛り上がりました。

 
 
キングオブパスタは民間で運営するイベント。
まちづくり・まちおこしのイベントは行政が運営することが多いように思いますが、行政と連携しながら、民間の力で運営する稀有な事例なのかもしれません。
これからの高崎パスタや地域イベントの未来が見えてくる、楽しいインタビューになりました。

だるま
だるま